っしゃいと云う。客はそうも行かないからと躊躇(ちゅうちょ)する。それじゃ月賦(げっぷ)でいただきましょう、月賦も細く、長く、どうせこれから御贔屓(ごひいき)になるんですから――いえ、ちっとも御遠懀Г摔霞挨婴蓼护蟆¥嗓Δ扦乖陇耸畠窑椁い袱恪:韦胜樵陇宋鍍窑扦鈽嫟い蓼护螭葍Wが極(ごく)きさくに云うんだ。それから僕と客の間に二三の問答があって、とど僕が狩野法眼(かのうほうげん)元信の幅を六百円ただし月賦十円払込の事で売渡す」
「タイムスの百科全書見たようですね」
「タイムスはたしかだが、僕のはすこぶる不慥(ふたしか)だよ。これからがいよいよ巧妙なる詐偽に取りかかるのだぜ。よく聞きたまえ月十円ずつで六百円なら何年で皆済(かいさい)になると思う、寒月君」
「無論五年でしょう」
「無論五年。で五年の歳月は長いと思うか短かいと思うか、独仙君」
「一念万年(いちねんばんねん)、万年一念(ばんねんいちねん)。短かくもあり、短かくもなしだ」
「何だそりゃ道歌(どうか)か、常識のない道歌だね。そこで五年の間毎月十円ずつ払うのだから、つまり先方では六十回払えばいいのだ。しかしそこが習慣の恐ろしいところで、六十回も同じ事を毎月繰り返していると、六十一回にもやはり十円払う気になる。六十二回にも十円払う気になる。六十二回六十三回、回を重ねるにしたがってどうしても期日がくれば十円払わなくては気が済まないようになる。人間は利口のようだが、習慣に迷って、根本を忘れると云う大弱点がある。その弱点に仱袱苾Wが何度でも十円ずつ毎月得をするのさ」
「ハハハハまさか、それほど忘れっぽくもならないでしょう」と寒月君が笑うと、主人はいささか真面目で、
「いやそう云う事は全くあるよ。僕は大学の貸費(たいひ)を毎月毎月勘定せずに返して、しまいに向(むこう)から断わられた事がある」と自分の恥を人間一般の恥のように公言した。
「そら、そう云う人が現にここにいるからたしかなものだ。だから僕の先刻(さっき)述べた文明の未来記を聞いて冗談だなどと笑うものは、六十回でいい月賦を生涯(しょうがい)払って正当だと考える連中だ。ことに寒月君や、枺L君のような経験の乏(とぼ)しい青年諸君は、よく僕らの云う事を聞いてだまされないようにしなくっちゃいけない」
。。
十一 … 20
「かしこまりました。月賦は必ず六十回限りの事に致します」
「いや冗談のようだが、実際参考になる話ですよ、寒月君」と独仙君は寒月君に向いだした。「たとえばですね。今苦沙弥君か迷亭君が、君が無断で結婚したのが穏当(おんとう)でないから、金田とか云う人に謝罪しろと忠告したら君どうです。謝罪する了見ですか」
「謝罪は御容赦にあずかりたいですね。向うがあやまるなら特別、私の方ではそんな慾はありません」
「警察が君にあやまれと命じたらどうです」
「なおなお御免蒙(ごめんこうむ)ります」
「大臣とか華族ならどうです」
「いよいよもって御免蒙ります」
「それ見たまえ。昔と今とは人間がそれだけ変ってる。昔は御上(おかみ)の御威光なら何でも出来た時代です。その次には御上の御威光でも出来ないものが出来てくる時代です。今の世はいかに殿下でも閣下でも、ある程度以上に個人の人格の上にのしかかる事が出来ない世の中です。はげしく云えば先方に権力があればあるほど、のしかかられるものの方では不愉快を感じて反抗する世の中です。だから今の世は昔(むか)しと摺盲啤⒂悉斡猡坤槌隼搐胜い韦坤仍皮π卢F象のあらわれる時代です、昔しのものから考えると、ほとんど考えられないくらいな事柄が道理で通る世の中です。世態人情の変遷と云うものは実に不思議なもので、迷亭君の未来記も冗談だと云えば冗談に過ぎないのだが、その辺の消息を説明したものとすれば、なかなか味(あじわい)があるじゃないですか」
「そう云う知己(ちき)が出てくると是非未来記の続きが述べたくなるね。独仙君の御説のごとく今の世に御上の御威光を笠(かさ)にきたり、竹槍の二三百本を恃(たのみ)にして無理を押し通そうとするのは、ちょうどカゴへ仱盲坪韦扦馕茫à─扦馄嚖雀傉筏瑜Δ趣ⅳ护搿r代後れの頑物(がんぶつ)――まあわからずやの張本(ちょうほん)、烏金(からすがね)の長範先生(ちょうはんせんせい)くらいのものだから、黙って御手際(おてぎわ)を拝見していればいいが――僕の未来記はそんな当座間に合せの小問睿袱悚胜ぁH碎g全体の呙碎vする社会的現象だからね。つらつら目下文明の傾向を達観して、遠き将来の趨勢(すうせい)を卜(ぼく)すると結婚が不可能の事になる。驚ろくなかれ、結婚の不可能。訳はこうさ。前(ぜん)申す通り今の世は個性中心の世である。一家を主人が代表し、一郡を代官が代表し、一国を領主が代表した時分には、代表者以外の人間には人格はまるでなかった。あっても認められなかった。それががらりと変ると、あらゆる生存者がことごとく個性を主張し出して、だれを見ても君は君、僕は僕だよと云わぬばかりの風をするようになる。ふたりの人が途中で逢えばうぬが人間なら、おれも人間だぞと心の中(うち)で喧嘩(けんか)を買いながら行き摺Α¥饯欷坤眰€人が強くなった。個人が平等に強くなったから、個人が平等に弱くなった訳になる。人がおのれを害する事が出来にくくなった点において、たしかに自分は強くなったのだが、滅多(めった)に人の身の上に手出しがならなくなった点においては、明かに昔より弱くなったんだろう。強くなるのは嬉しいが、弱くなるのは誰もありがたくないから、人から一毫(いちごう)も犯(おか)されまいと、強い点をあくまで固守すると同時に、せめて半毛(はんもう)でも人を侵(おか)してやろうと、弱いところは無理にも拡(ひろ)げたくなる。こうなると人と人の間に空間がなくなって、生きてるのが窮屈になる。出来るだけ自分を張りつめて、はち切れるばかりにふくれ返って苦しがって生存している。苦しいから色々の方法で個人と個人との間に余裕を求める。かくのごとく人間が自業自得で苦しんで、その苦し紛(まぎ)れに案出した第一の方案は親子別居の制さ。日本でも山の中へ這入って見給え。一家一門(いっけいちもん)ことごとく一軒のうちにごろごろしている。主張すべき個性もなく、あっても主張しないから、あれで済むのだが文明の民はたとい親子の間でもお互に我儘(わがまま)を張れるだけ張らなければ損になるから勢(いきお)い両者の安全を保持するためには別居しなければならない。欧洲は文明が進んでいるから日本より早くこの制度が行われている。たまたま親子同居するものがあっても、息子(むすこ)がおやじから利息のつく金を借りたり、他人のように下宿料を払ったりする。親が息子の個性を認めてこれに尊敬を払えばこそ、こんな美風が成立するのだ。この風は早晩日本へも是非輸入しなければならん。親類はとくに離れ、親子は今日(こんにち)に離れて、やっと我慢しているようなものの個性の発展と、発展につれてこれに対する尊敬の念は無制限にのびて行くから、まだ離れなくては楽が出来ない。しかし親子兄弟の離れたる今日、もう離れるものはない訳だから、最後の方案として夫婦が分れる事になる。今の人の考ではいっしょにいるから夫婦だと思ってる。それが大きな了見摺い怠¥い盲筏绀摔い毪郡幛摔悉い盲筏绀摔い毪顺浞证胜毪坤眰€性が合わなければならないだろう。昔しなら文句はないさ、異体同心とか云って、目には夫婦二人?
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