《吾輩は猫である》第111章


「これからが聞きどころですよ。今までは単に序幕です」
「まだあるのかい。こいつは容易な事じゃない。たいていのものは君に逢っちゃ根気負けをするね」
「根気はとにかく、ここでやめちゃ仏作って魂入れずと一般ですから、もう少し話します」
「話すのは無論随意さ。聞く事は聞くよ」
「どうです苦沙弥先生も御聞きになっては。もうヴァイオリンは買ってしまいましたよ。ええ先生」
「こん度はヴァイオリンを売るところかい。売るところなんか聞かなくってもいい」
「まだ売るどこじゃありません」
「そんならなお聞かなくてもいい」
「どうも困るな、枺L君、君だけだね、熱心に聞いてくれるのは。少し張合が抜けるがまあ仕方がない、ざっと話してしまおう」
「ざっとでなくてもいいから緩(ゆっ)くり話したまえ。大変面白い」
「ヴァイオリンはようやくの思で手に入れたが、まず第一に困ったのは置き所だね。僕の所へは大分(だいぶ)人が撸Г婴摔毪闇缍啵à幛盲浚─仕丐证椁丹菠郡辍⒘ⅳ茟窑堡郡辘工毪趣工奥兑姢筏皮筏蓼ΑQà蚓颏盲坡瘠幛沥憔颏瓿訾工韦娴工坤恧Α?br />
「そうさ、天井裏へでも隠したかい」と枺L君は気楽な事を云う。
「天井はないさ。百姓家(ひゃくしょうや)だもの」
「そりゃ困ったろう。どこへ入れたい」
「どこへ入れたと思う」
「わからないね。戸袋のなかか」
「いいえ」
「夜具にくるんで戸棚へしまったか」
「いいえ」
枺L君と寒月君はヴァイオリンの隠(かく)れ家(が)についてかくのごとく問答をしているうちに、主人と迷亭君も何かしきりに話している。
「こりゃ何と読むのだい」と主人が聞く。
「どれ」
「この二行さ」
「何だって? quid aliud est mulier nisi amiciti inimica[#「amiciti 」は底本では「amiticiae」]……こりゃ君羅甸語(ラテンご)じゃないか」
「羅甸語は分ってるが、何と読むのだい」
「だって君は平生羅甸語が読めると云ってるじゃないか」と迷亭君も危険だと見て取って、ちょっと逃げた。
「無論読めるさ。読める事は読めるが、こりゃ何だい」
「読める事は読めるが、こりゃ何だは手ひどいね」
「何でもいいからちょっと英語に訳して見ろ」
「見ろは烈しいね。まるで従卒のようだね」
「従卒でもいいから何だ」
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十一 … 11

「まあ羅甸語などはあとにして、ちょっと寒月君のご高話を拝聴仕(つかまつ)ろうじゃないか。今大変なところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪と云う安宅(あたか)の関(せき)へかかってるんだ。――ねえ寒月君それからどうしたい」と急に仛荬摔胜盲啤ⅳ蓼骏籁ˉぅ辚螭沃匍g入りをする。主人は情(なさ)けなくも取り残された。寒月君はこれに勢を得て隠し所を説明する。
「とうとう古つづらの中へ隠しました。このつづらは国を出る時御祖母(おばあ)さんが餞別にくれたものですが、何でも御祖母さんが嫁にくる時持って来たものだそうです」
「そいつは古物(こぶつ)だね。ヴァイオリンとは少し眨亭筏胜い瑜Δ馈¥亭|風君」
「ええ、ちと眨亭护螭扦埂?br />
「天井裏だって眨亭筏胜い袱悚胜い工群戮蠔|風先生をやり込めた。
「眨亭悉筏胜い⒕浃摔悉胜毪琛残膜方oえ。秋淋(あきさび)しつづらにかくすヴァイオリンはどうだい、両君」
「先生今日は大分(だいぶ)俳句が出来ますね」
「今日に限った事じゃない。いつでも腹の中で出来てるのさ。僕の俳句における造詣(ぞうけい)と云ったら、故子規子(こしきし)も舌を捲(ま)いて驚ろいたくらいのものさ」
「先生、子規さんとは御つき合でしたか」と正直な枺L君は真率(しんそつ)な伲鼏枻颏堡搿?br />
「なにつき合わなくっても始終無線電信で肝胆相照らしていたもんだ」と無茶苦茶を云うので、枺L先生あきれて黙ってしまった。寒月君は笑いながらまた進行する。
「それで置き所だけは出来た訳だが、今度は出すのに困った。ただ出すだけなら人目を掠(かす)めて眺(なが)めるくらいはやれん事はないが、眺めたばかりじゃ何にもならない。弾(ひ)かなければ役に立たない。弾けば音が出る。出ればすぐ露見する。ちょうど木槿垣(むくげがき)を一重隔てて南隣りは沈澱組(ちんでんぐみ)の頭領が下宿しているんだから剣呑(けんのん)だあね」
「困るね」と枺L君が気の毒そうに眨婴蚝悉铯护搿?br />
「なるほど、こりゃ困る。論より証拠音が出るんだから、小督(こごう)の局(つぼね)も全くこれでしくじったんだからね。これがぬすみ食をするとか、贋札(にせさつ)を造るとか云うなら、まだ始末がいいが、音曲(おんぎょく)は人に隠しちゃ出来ないものだからね」
「音さえ出なければどうでも出来るんですが……」
「ちょっと待った。音さえ出なけりゃと云うが、音が出なくても隠(かく)し了(おお)せないのがあるよ。昔(むか)し僕等が小石川の御寺で自炊をしている時分に鈴木の藤(とう)さんと云う人がいてね、この藤さんが大変味淋(みりん)がすきで、ビ毪螐岳à趣盲辏─匚读埭蛸Iって来ては一人で楽しみに飲んでいたのさ。ある日藤(とう)さんが散歩に出たあとで、よせばいいのに苦沙弥君がちょっと盗んで飲んだところが……」
「おれが鈴木の味淋などをのむものか、飲んだのは君だぜ」と主人は突然大きな声を出した。
「おや本を読んでるから大丈夫かと思ったら、やはり聞いてるね。油断の出来ない男だ。耳も八丁、目も八丁とは君の事だ。なるほど云われて見ると僕も飲んだ。僕も飲んだには相摺胜いk覚したのは君の方だよ。――両君まあ聞きたまえ。苦沙弥先生元来酒は飲めないのだよ。ところを人の味淋だと思って一生懸命に飲んだものだから、さあ大変、顔中真赤(まっか)にはれ上ってね。いやもう二目(ふため)とは見られないありさまさ……」
「黙っていろ。羅甸語(ラテンご)も読めない癖に」
「ハハハハ、それで藤(とう)さんが帰って来てビ毪螐岳颏栅盲埔姢毪取敕忠陨献悚辘胜ぁ:韦扦庹lか飲んだに相摺胜い仍皮Δ韦且姀hして見ると、大将隅の方に朱泥(しゅでい)を練りかためた人形のようにかたくなっていらあね……」
三人は思わず哄然(こうぜん)と笑い出した。主人も本をよみながら、くすくすと笑った。独(ひと)り独仙君に至っては機外(きがい)の機(き)を弄(ろう)し過ぎて、少々疲労したと見えて、碁盤の上へのしかかって、いつの間(ま)にやら、ぐうぐう寝ている。
「まだ音がしないもので露見した事がある。僕が昔し姥子(うばこ)の温泉に行って、一人のじじいと相宿になった事がある。何でも枺─螀曳荬坞L居か何かだったがね。まあ相宿だから呉服屋だろうが、古着屋だろうが構う事はないが、ただ困った事が一つ出来てしまった。と云うのは僕は姥子(うばこ)へ着いてから三日目に煙草(たばこ)を切らしてしまったのさ。諸君も知ってるだろうが、あの姥子と云うのは山の中の一軒屋でただ温泉に這入(はい)って飯を食うよりほかにどうもこうも仕様のない不便の所さ。そこで煙草を切らしたのだから御難だね。物はないとなるとなお欲しくなるもので、煙草がないなと思うやいなや、いつもそんなでないのが急に呑みたくなり出してね。意地のわるい事に、そのじじいが風呂敷に一杯煙草を用意して登山しているのさ。それを少しずつ出しては、人の前で胡坐(あぐら)をかいて呑みたいだろうと云わないばかりに、すぱすぱふかすのだね。ただふかすだけなら勘弁のしようもあるが、しま
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